2013年度初回となる第23回助教の会では,数理第六研究室特任助教の森野佳生(もりのかい)さんに,「振動が失われたネットワークにおける効率的な大域的振動の回復」というタイトルで発表して頂きました.森野さんは合原研でこの3月に博士を取得され,4月に特任助教として数理六研に着任されました.非線形動力学や疾患の数理モデルを専門として研究されています.
講演の内容はまだ論文投稿中とのことですので,後日公開させて頂きます.
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論文が出版されたということですので,2014年4月11日に内容を追加しました.
今回の講演では,振動が止まってしまったネットワークにおいて,外部から振動可能な素子を加えることによって再びネットワークの振動を引き起こす,という現象の数理モデルが扱われました.このモデルは再生医療を動機としたものになっています.
再生医療とは,機能を失った臓器に対して,何らかの細胞を移植することによって元々の組織の治癒能力を高め機能を回復する手段のことです.近年では,移植の際の副作用が小さい手法として,シート状に並べられた細胞を元の臓器に貼り付けることによって臓器の機能を回復する手法が研究されています.例えば,心筋細胞から作られているシートでは発火が起こりますが,シートの各部分の発火のタイミングは,時間の経過に伴って同期するということが知られています.今回の講演では,各細胞の振動が Stuart-Landau (SL) oscillator と呼ばれるモデルで表せると仮定し,振動がどのように時間発展していくのかを数理的に解析しています.すなわち,再生医療の視点から見ると,弱った機能が回復する過程をモデリングして解析しています.
各細胞の振動が SL oscillator で表されるとすると,細胞が active か inactive か(正常かどうか)を一つのパラメータの正負によって区別することができます.今回は,振動子は active なものと inactive なものの2種類のみであると仮定し,各振動子の間で相互に影響を及ぼしあう場合を考えています.これらの仮定の下では,inactive な振動子の割合がある閾値を超えると,全体の振動が止まってしまうことが先行研究により確認されています.
さて,振動が止まってしまった状態から,図のように active な振動子を加えて振動を回復させることはできるでしょうか?
本研究の1つ目の成果は,振動を回復するために外部に active な振動子をどれくらい加えれば良いのか,を理論的に解析したことです.振動子の数は大量にありますので,単純な計算では解析することができません.そこで本研究では,「同じ性質を持つグループに属する振動子は同期している」という妥当な仮定を加えたうえで,全体の振動が0かどうかの判定を原点の安定性の判定に置き換える,という工夫をして解析をしています.2つ目の成果は,効率的な振動子の加え方を解析したことです.理論的な解析によって,新たに加える振動子は active なものに優先して付加していけばよいという結果を得ています.最後に3つ目の成果として,2つ目の成果として述べた最適な方法で振動子を加えていったときに,振動の回復が起こる過程を初期状態によって4つに分類しています.
今回の講演では,再生医療という具体的な動機から,数理的なモデル化とその理論的な解析に至るまで詳細に話して頂きました.「現実的な問題を表現すること」と「理論的に解析しやすい形にすること」とを両立することがモデル化の難しさであり,面白さでもあると感じました.
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