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2013年2月6日水曜日

第21回助教の会



第21回目となる今回の数理助教の会は、国立情報学研究所 ERATO特任研究員の前原貴憲 (まえはらたかのり)さんに「行列の同時ブロック対角化問題」について発表していただきました。
タイトルにある「行列の同時ブロック対角化問題」とは n次の実正方行列がN個与えられた下で、共通の直交行列Pをうまくとってできるだけ細かいブロック対角行列に変形するという問題です。
この問題は、古くは、結晶物理に出てくるハミルトニアンの一般的な形を考える際にWignerが考えていました。その後も、物理では群論的手法として抽象的な議論がされてきました。しかし、このような問題は、工学における半正定値計画や、信号処理における独立成分分析、最近では、動的ネットワークの安定性解析など、いたるところに現れてきます。後者では、規模の大きい行列を数値的に扱うことを想定した うまい同時ブロック対角化が議論されています。

理論的には one-by-one method として二つの可換な対称行列の同時対角化の証明が100年以上も前から知られていました。しかし、このような素朴な方法は、巨大な行列に対して数値的に対角化を行う場合には、誤差に弱いことが知られていました。 Bunse-Gerstner, Byers, Mehrmann (1990)は最適化の枠組みで、このような問題を取り扱っています。(Jacobi-like method)その後、JADEとよばれる方法によって、複数の行列の同時ブロック対角化が提案されましたが、厳密にうまくいくことが証明されたわけではありません。うまくいかない例もつくられています。


一方で、前原さんの研究では、このような問題に対して、数学的にしっかりとした理論を用いて、アルゴリズムを提案しています。前原さんのアイディアの数学的な基礎は1905年のSchurの研究にまでさかのぼります。(いわゆるSchur の補題として知られる結果。) 行列の組によって生成される*代数 (star algebra) の交換子代数を考え、その元をランダムに一つとってきて、対角化する行列を見つけるというものです。行列の組がもつ対称性に注目し、行列自身を群の(有限次元)表現とみなすことで、既約分解の一般論を適用します。このような発想によって、one-by-one method の拡張を得たのが前原さんの一連の研究結果です。


スライドに出てくるArtin-Wedderburnの構造定理は、かなり抽象的な代数の話題ですが、これらの結果をうまく現実的な問題に適用できることが素晴らしいと思いました。ランダム行列理論を用いた誤差評価などは、数値的に統計的推定を扱う際にも役立ちそうで興味深かったです。 Jacobson根基が残るケース(半単純代数でないケース)の分解については、まだできていないとの話でしたが、工学的な応用のみならず、統計物理でよく出てくるHeisenberg群などの例もあるので、今後に期待したい所です。

また、この助教の会のブログをいつもご覧になっている皆さんの中には、坂下達哉さんの発表(第12回 2012年1月)の際の密度行列のテンソル積の既約分解の話 (同スライド p.23)が、前原さんの取り扱っている問題の特殊ケースになっていることに気付いた方もおられるかもしれません。発表の際にも指摘したのですが、坂下さんの研究では、並列計算を駆使して高精度の固有値計算を行っており、今回の前原さんの研究とも大いに関連があるように思いました。



数理4研 田中 冬彦

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