日本で交通渋滞は、1年で11兆円もの経済損失につながっているとの試算があるそうです。そのため、渋滞緩和は重要な社会的課題の一つとなっています。 渋滞緩和では、道路などのインフラ整備(大規模)、信号やスピード制限などの規制を設ける方法、そして、個々の車の振る舞い(例:車間距離)に注目するという3つの切り口があります。インフラ整備や交通規制は大掛かりになりますので、個々の車の動きに注目した、低コストで渋滞緩和に効果を発揮する方法が望まれています。高速道路上でインターチェンジや合流部はゆるやかな上り坂(サグ部)、トンネルについで、渋滞の発生する場所ですが、日本で特に有名なのは小菅ジャンクション(JCT)だそうです。
交通流の研究は意外に歴史が古く、1930年代(日本は昭和初期)のアメリカで既に様々なデータ(速度 - 車間距離など)がとられていたようです。1990年代になると、物理学的な手法の1つとして、一つ一つの車を自己駆動粒子(Self Driven Particle; SDP)とみなし、交通流を多数の自己駆動粒子の集まりととらえて数理モデルで表現する研究が発展しました。また、統計物理の立場で、渋滞している状態と、そうでない状態を相転移ととらえるような研究もあるそうです。
西さんは、上のような渋滞現象の数理モデルでの記述から、さらに一歩進んで、実際に渋滞が起きるケースに注目し、渋滞緩和の具体的な方法を研究しています。私はこの点が非常に優れていると思いました。それでは、西さんたちが注目している小菅ジャンクション(JC)での渋滞緩和のアイディアをみていきましょう。
一般に車線変更が起きるような道路ではジッパー配置が理想的とされています。ジッパー配置とは、互い違いなど隣り合わずに並走している状態で、いったんジッパー配置になればスムーズに車線変更が可能となります。
ところが、下図のような、二つの道路がいったん合流して、すぐに分岐するような場所(例:小菅JCT)では、ジッパー配置になる前に車線変更してくる車は、後ろの車を減速させて、渋滞を発生させてしまいます。そこで、小菅JCTのような合流地点で、図の下側にあるようなオレンジライン(車線変更禁止ライン)を引くことを考えます。合流直後の車線変更を防ぎ、車線間相互作用を活用してジッパー配置を励起するのが狙いです。非常に安価であるというメリットがあります。
図の下側のように、オレンジラインに沿って上下車線の車がジッパー配置になることでスムーズに車線変更がおきます。 さて、このジッパー合流ですが、小菅JCTのように、合流部分が7~800メートルと短い区間では、オレンジラインの長さの調整が大変難しいそうです。また、実際に実験するのも大変コストがかかり危険を伴うため、まずは、数値シミュレーションで解析する必要があります。 西さんは、セルオートマータ(CA)を用いて、2車線の系で自動車がどのようにふるまうかを様々な条件のもと、シミュレーションしています。
各車は、隣の車線に車があると減速したり、前が空いたら加速するといった複雑なふるまいをしますので、連続時間で表現するのは難しく、まずは、離散的な時間で1マスずつ車を動かしています。上のモデルでは、パラメータ a (0<a<1) を動かした時にどれだけ短い距離でジッパー配置を達成できるかがわかりました。また、平均場近似による計算でも説明できます。他にもパラメータを調整して様々な結果がわかってきました。しかしながら、このようなシンプルな数理モデルでも、実際の状況に合うパラメータをどうやって推定すればいいかわからないという状況で、応用には様々な課題があるそうです。
私の感想としては、まず、実験的に検証しづらい現象をここまで数学的にモデル化できたというのが驚きです。 これは、他に先行研究のない全く新しい研究で、今後、日本が世界をリードできる分野の一つと感じました。また、1%でも渋滞緩和ができれば、経済効果としては単純計算で1年1000億円になります。道路での実証実験と実用化を目指し、数理モデルでのシミュレーションにある程度の予算と人材を投入すべきと思います。
発表では、既にある小菅JCTの課題をとらえて解決案を探っていましたが、今後の道路網整備や都市計画などへも、非常に有効な知見を与えられるのではないでしょうか。道路のような巨大なインフラでは、ちょっとした設計ミスが将来、多額の国家損失になりえますので、やはり、ある程度の研究予算を投入すべきと思いました。
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数理4研 田中冬彦
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