数理助教の会
2015年4月7日火曜日
第35回助教の会
今回の助教の会は数理1研の本多が「polar符号および非対称通信路の符号化について」ということで情報理論の最近の結果に関する発表をしました.polar符号は2008年に提案された比較的新しい符号で,符号長に対して多項式時間で指数関数的に小さい復号誤り確率が達成できること示された初めての符号になります.
情報理論で扱う多くの符号が符号理論特有の手法により解析を行うのに対して,polar符号では分極現象という確率過程に関する基本的な結果から導かれる現象を用いた説明がなされ,情報理論にあまりなじみがない人にはおそらく最も分かりやすい符号になっています.もう少し具体的には,「確率変数のコピーを用意してそれらを可逆な演算により対称性を崩す」という操作を再帰的に繰り返すことにより,値が一意に定まる確率変数と完全にランダムな確率変数に分離することができることから,後者の確率変数のみにより元の確率変数全体をほぼ一意に表現できる(→無歪み圧縮ができる)ほか,前者の確率変数を用いることで情報を誤りなしで伝送することができる,というものです.
また,初めに提案されたpolar符号は通信路が対称,つまり0が1に反転する確率と1が0に反転する確率が等しい場合のためのものでしたが,これをpolar符号による無歪み圧縮とpolar符号による通信路符号化を組み合わせることにより非対称な通信路に対しても理論限界を達成することができます.
後半では,非対称の通信路に対してより良い性能を達成する符号の構成についても説明しましたが,こちらは未発表の内容を含むためここでは割愛させて頂きます.
数理第一研究室 本多淳也
2015年3月30日月曜日
第34回助教の会
第34回助教の会では,数理6研の森野が「動的な素子から成るネットワークの頑強性」というタイトルで発表しました.
今回の発表内容は生物学的なネットワークの頑強性を数理的アプローチにより理解しようというものです.
その為に,
神経細胞の数理モデルである Morris-Lecar モデルを
C. elegans という線虫の神経細胞ネットワーク構造に従って結合させた系に関する解析を行いました.
神経細胞の数理モデルでは神経細胞の膜電位に相当する変数があります. 神経細胞では膜電位の値が急激に大きくなった後,また小さくなる現象が知られており,発火と呼ばれています. Morris-Lecar モデルは様々なパラメータを持ちますが, これらのパラメータを変化させることで単体の数理モデルが周期的に発火する状態(周期性素子)と, 一度発火すると外部刺激がなければ再び発火することはない状態(興奮性素子)の両方を表現することができます.
具体的な解析手順ですが,まず全てのMorris-Lecar モデル(素子)が周期性素子であるとし,それらが C. elegans の神経細胞ネットワーク状に結合している場合を考えます. そして,素子を一つずつ興奮性素子に置き換えていったときに,どれだけの割合の素子を置き換えるとネットワーク全体の平均発火率が大きく減少するかについて, ギャップジャンクションとシナプス結合の有無やその結合強度を変化させた条件の下,置き換える素子の順番なども変化させながら解析しました. その結果,平均発火率が大きく減少する割合は置き換えの手順に依存し,パラメータの値によっても大きく異なることがわかりました.
本研究の詳細は, 動的頑強性のレビューと共に"Mathematical Approaches to Biological Systems Networks, Oscillations, and Collective Motions" (Springer, 2015) の第二章 (G. Tanaka, K. Morino, and K. Aihara, "Dynamical Robustness of Complex Biological Networks") にて詳しく述べられています (書籍へのリンク).
数理情報第六研究室 森野佳生
神経細胞の数理モデルでは神経細胞の膜電位に相当する変数があります. 神経細胞では膜電位の値が急激に大きくなった後,また小さくなる現象が知られており,発火と呼ばれています. Morris-Lecar モデルは様々なパラメータを持ちますが, これらのパラメータを変化させることで単体の数理モデルが周期的に発火する状態(周期性素子)と, 一度発火すると外部刺激がなければ再び発火することはない状態(興奮性素子)の両方を表現することができます.
具体的な解析手順ですが,まず全てのMorris-Lecar モデル(素子)が周期性素子であるとし,それらが C. elegans の神経細胞ネットワーク状に結合している場合を考えます. そして,素子を一つずつ興奮性素子に置き換えていったときに,どれだけの割合の素子を置き換えるとネットワーク全体の平均発火率が大きく減少するかについて, ギャップジャンクションとシナプス結合の有無やその結合強度を変化させた条件の下,置き換える素子の順番なども変化させながら解析しました. その結果,平均発火率が大きく減少する割合は置き換えの手順に依存し,パラメータの値によっても大きく異なることがわかりました.
本研究の詳細は, 動的頑強性のレビューと共に"Mathematical Approaches to Biological Systems Networks, Oscillations, and Collective Motions" (Springer, 2015) の第二章 (G. Tanaka, K. Morino, and K. Aihara, "Dynamical Robustness of Complex Biological Networks") にて詳しく述べられています (書籍へのリンク).
数理情報第六研究室 森野佳生
2014年11月10日月曜日
第33回助教の会
今回は、中川研の佐藤一誠が担当しました。
東大病院との共同研究として行っているプロジェクトの1つである
「深層学習(Deep Learning)とベイズ的最適化(Bayesian Optimization)による医用画像読影支援の試み」について説明しました。
これまでは論文を書いて投稿してを繰り返す日々でしたが、アカデミアの研究者としては、論文以外の社会貢献もしっかりと行いたいという強い気持ちがあり、最近ではこのような研究を行っています。
ここでのモチベーショは、医用画像診断をする際に、医師の負担を軽減することです。
例えば、CTやMRIを用いて1回の診断で生成される画像は300-500枚、時には1000枚を超えることがあり、これらを10-30分程度で分析しなければいけません。
近年、分析すべき画像枚数は増加傾向にあり、取りこぼしの危険性が増加しています。
この危険性をできるだけ軽減するのが目的です。
これは、自動車の「自動ブレーキアシストシステム」が近い概念だと思います。
つまり、万が一の場合にアシストするシステムです。
現在は、医用画像から特徴量を設計する部分を人手で(医師による知識を用いて)行っています。
しかし、医用画像の病変は、症例毎に性質が異なり、これらを症例ごとに設計するのは高コストです。この研究では、画像から直接特徴量を学習できる深層学習を用いることで、これらの問題解決を行っています。
しかし、深層学習では、チューニングすべきパラメータが膨大であるため、この部分にも人手によるコストが発生してしまします。そこで、ベイズ的最適化と呼ばれる分野の技術を用いることでこれらも自動チューニングすることを試みています。
ベイズ的最適化は、1978年と古くから研究されており、一般的に高コストなBlack-box関数y=f(x)の最適化を行う手法の総称で、
関数の形がわからないので、事前分布を導入し、事例(x,y)が与えられる毎に事後分布を更新し、その情報を用いて最適化x*=argmax/argmin f(x)を行います。
深層学習では、ハイパーパラメータとそれによって出力される値(交差検定によって得られる精度など)の関係は、Black-boxであるため、
この技術を用いることで、ハイパーパラメータのチューニングを行うことが出来ます。
2014年7月16日水曜日
第32回助教の会
今回は相島が担当し,Lanczos法について詳しく発表させてもらいました.現代の理工学において大規模固有値問題を数値的に解きたいという需要は多いです.Lanczos法は最も有力な固有値計算アルゴリズムの一つであり,これはKrylov部分空間を用いるRayleigh-Ritzの技法です.本発表ではRayleigh-Ritzの技法について簡単に説明し,Lanczos法にリスタートを導入した場合の収束性解析について自分の研究を中心に話しました.また,他にもRayleigh-Ritzの技法に属する有力なアルゴリズムがありますが,多くの発表時間をLanczos法に費やして時間がなくなってしまったのと,現在進行中の研究内容も含んでいるためここでは割愛させて頂きます.
追記:発表中の質問を参考に,まとめとくとよさそうなことを追記しておきます.
数理第三研究室 相島健助
Aishima140714 from nwpmq516
2014年5月20日火曜日
第31回助教の会
第31回助教の会では,数理5研の廣瀬が「条件付き正規化最尤分布について」というタイトルで発表しました.未発表の内容を含みますので,スライドは後日あらためて公開したいと思います.
今回の発表内容は,「条件付き正規化最尤分布 (Conditional Normalized Maximum Likelihood, CNML)」という確率分布がどのような性質をもつかというものです.リグレットと呼ばれる損失関数のミニマックスを達成する確率分布として「正規化最尤分布 (Normalized Maximum Likelihood, NML)」が得られます.CNMLはNMLの一般化です.統計的決定理論の観点からCNMLの性質について報告しました.
数理情報第5研究室 廣瀬善大
2014年4月11日金曜日
第23回助教の会
2013年度初回となる第23回助教の会では,数理第六研究室特任助教の森野佳生(もりのかい)さんに,「振動が失われたネットワークにおける効率的な大域的振動の回復」というタイトルで発表して頂きました.森野さんは合原研でこの3月に博士を取得され,4月に特任助教として数理六研に着任されました.非線形動力学や疾患の数理モデルを専門として研究されています.
講演の内容はまだ論文投稿中とのことですので,後日公開させて頂きます.
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論文が出版されたということですので,2014年4月11日に内容を追加しました.
今回の講演では,振動が止まってしまったネットワークにおいて,外部から振動可能な素子を加えることによって再びネットワークの振動を引き起こす,という現象の数理モデルが扱われました.このモデルは再生医療を動機としたものになっています.
再生医療とは,機能を失った臓器に対して,何らかの細胞を移植することによって元々の組織の治癒能力を高め機能を回復する手段のことです.近年では,移植の際の副作用が小さい手法として,シート状に並べられた細胞を元の臓器に貼り付けることによって臓器の機能を回復する手法が研究されています.例えば,心筋細胞から作られているシートでは発火が起こりますが,シートの各部分の発火のタイミングは,時間の経過に伴って同期するということが知られています.今回の講演では,各細胞の振動が Stuart-Landau (SL) oscillator と呼ばれるモデルで表せると仮定し,振動がどのように時間発展していくのかを数理的に解析しています.すなわち,再生医療の視点から見ると,弱った機能が回復する過程をモデリングして解析しています.
各細胞の振動が SL oscillator で表されるとすると,細胞が active か inactive か(正常かどうか)を一つのパラメータの正負によって区別することができます.今回は,振動子は active なものと inactive なものの2種類のみであると仮定し,各振動子の間で相互に影響を及ぼしあう場合を考えています.これらの仮定の下では,inactive な振動子の割合がある閾値を超えると,全体の振動が止まってしまうことが先行研究により確認されています.
さて,振動が止まってしまった状態から,図のように active な振動子を加えて振動を回復させることはできるでしょうか?
本研究の1つ目の成果は,振動を回復するために外部に active な振動子をどれくらい加えれば良いのか,を理論的に解析したことです.振動子の数は大量にありますので,単純な計算では解析することができません.そこで本研究では,「同じ性質を持つグループに属する振動子は同期している」という妥当な仮定を加えたうえで,全体の振動が0かどうかの判定を原点の安定性の判定に置き換える,という工夫をして解析をしています.2つ目の成果は,効率的な振動子の加え方を解析したことです.理論的な解析によって,新たに加える振動子は active なものに優先して付加していけばよいという結果を得ています.最後に3つ目の成果として,2つ目の成果として述べた最適な方法で振動子を加えていったときに,振動の回復が起こる過程を初期状態によって4つに分類しています.
今回の講演では,再生医療という具体的な動機から,数理的なモデル化とその理論的な解析に至るまで詳細に話して頂きました.「現実的な問題を表現すること」と「理論的に解析しやすい形にすること」とを両立することがモデル化の難しさであり,面白さでもあると感じました.
講演の内容はまだ論文投稿中とのことですので,後日公開させて頂きます.
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論文が出版されたということですので,2014年4月11日に内容を追加しました.
今回の講演では,振動が止まってしまったネットワークにおいて,外部から振動可能な素子を加えることによって再びネットワークの振動を引き起こす,という現象の数理モデルが扱われました.このモデルは再生医療を動機としたものになっています.
再生医療とは,機能を失った臓器に対して,何らかの細胞を移植することによって元々の組織の治癒能力を高め機能を回復する手段のことです.近年では,移植の際の副作用が小さい手法として,シート状に並べられた細胞を元の臓器に貼り付けることによって臓器の機能を回復する手法が研究されています.例えば,心筋細胞から作られているシートでは発火が起こりますが,シートの各部分の発火のタイミングは,時間の経過に伴って同期するということが知られています.今回の講演では,各細胞の振動が Stuart-Landau (SL) oscillator と呼ばれるモデルで表せると仮定し,振動がどのように時間発展していくのかを数理的に解析しています.すなわち,再生医療の視点から見ると,弱った機能が回復する過程をモデリングして解析しています.
各細胞の振動が SL oscillator で表されるとすると,細胞が active か inactive か(正常かどうか)を一つのパラメータの正負によって区別することができます.今回は,振動子は active なものと inactive なものの2種類のみであると仮定し,各振動子の間で相互に影響を及ぼしあう場合を考えています.これらの仮定の下では,inactive な振動子の割合がある閾値を超えると,全体の振動が止まってしまうことが先行研究により確認されています.
さて,振動が止まってしまった状態から,図のように active な振動子を加えて振動を回復させることはできるでしょうか?
本研究の1つ目の成果は,振動を回復するために外部に active な振動子をどれくらい加えれば良いのか,を理論的に解析したことです.振動子の数は大量にありますので,単純な計算では解析することができません.そこで本研究では,「同じ性質を持つグループに属する振動子は同期している」という妥当な仮定を加えたうえで,全体の振動が0かどうかの判定を原点の安定性の判定に置き換える,という工夫をして解析をしています.2つ目の成果は,効率的な振動子の加え方を解析したことです.理論的な解析によって,新たに加える振動子は active なものに優先して付加していけばよいという結果を得ています.最後に3つ目の成果として,2つ目の成果として述べた最適な方法で振動子を加えていったときに,振動の回復が起こる過程を初期状態によって4つに分類しています.
今回の講演では,再生医療という具体的な動機から,数理的なモデル化とその理論的な解析に至るまで詳細に話して頂きました.「現実的な問題を表現すること」と「理論的に解析しやすい形にすること」とを両立することがモデル化の難しさであり,面白さでもあると感じました.
2014年4月10日木曜日
第30回助教の会
2014年度初回の助教の会では,数理2研の小林が発表しました.開始以来だんだんと長文になってきていたこのブログですが,担当者の負担が大きいこともあり,本年度から本人が書く形式にすることになりました.今後ともよろしくお願いします.
さて,今回は「円板形領域損傷モデルにおける 最大流最小カット定理と高速アルゴリズム」というタイトルで発表いたしました.ネットワークの信頼性の指標として用いられる「グラフの連結度」は,グラフ理論や最適化の分野で盛んに研究されています.連結度は,「何本の辺(点)を取り除くとグラフが連結でなくなるか?」を表す量であり,辺や点を取り除くことは,ネットワークにおいてリンクやノードが故障することを意味しています.
今回は,道路網のように平面上に埋め込まれているグラフを考えます.そして,個々のリンクやノードの故障を考える代わりに,自然災害や事故のように,損傷が地理的な広がりを持った領域で起こるモデルを考えています.具体的には,損傷がおこる領域は円板形で表され,損傷がおこるとその領域内のリンクやノードがすべて使えなくなるという設定です.
このモデルにおいて,いくつの損傷が起こると連結性が壊れるかを求める問題(最小カット問題)と,その双対にあたる問題(最大流問題)を扱ったのが今回の発表の内容です.本研究では,これらの問題に対して,最大最小定理を与え,高速なアルゴリズムを構築しています.
同じ内容で講演したものがこのページにありますので,興味のある方はご覧下さい.
数理第二研究室 小林佑輔
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